電脳迷宮

<4回目>地域文化賞

バーチャル認知される

■「お宅のモノ」から
うれしい賞をいただいた。
とかく電子ネットワークはお宅のモノ、特殊な人、技術者たちのモノなどと言われがちであったが、昨今はインターネットの爆発的な普及もあってようやく世間に認知され始めたといっていいだろう。そういった矢先の本年七月、サントリー文化財団が われわれに「サントリー地域文化賞」を下さったことは、とてもありがたいことだった。もちろん、財団としても今回が初めて「電子文化」を対象とすることになったそうだが。
受賞式当日、会場に関西在住のコアラ会員が集まってきた。彼らの特徴は、臆せずネアカに自らが楽しんでしまうところ。
滋賀県在住で日田市出身の武内さんご夫妻は、コアラに興味を持たれる方々にイキイキと説明したり、同じく受賞された「名古屋むすめ歌舞伎」の方々に手づくり名刺を差し出し握手をし、写真を一緒に撮ったりと、大いに楽しんでる。
今年東大大学院を卒業して神戸に就職、社会人になったばかりの原田騎郎君は中学時代からのコアラ会員。学生時代にムルロワ環礁の仏核実験反対のホームページをつくり、世界中から何万通もの電子メールを集めた経験を、聞かれるままに話している。

■境超え交流し合う
パーティーは歴代の先輩受賞者もいて、そこにわれわれ新人|一市民が突然混じった格好。でも、それぞれが自分たちの地域にマエムキに住み、それを楽しんでみせる、というところが共通項のようで、違和感なく“地域が主人公”を実践。
…でも待てよ。地域ってなんだろう?
電子ネットワークは町や市、県という境を超えて交流し合うモノで、そこには従来の地域の概念とは多少趣きが異なるようだ。現にコアラは長い間会員の半数近くが大分県外在住者だった。武内夫妻も原田君も県外者。
つまりは「“大分”というキーワードがベースの電子ネットワーク上で、互いが交流することに抵抗ない人たち、あるいは喜びを感じる人たちでつくられたコミュニティー」と言えそうだ。そのバーチャル地域に“地域文化賞”をいただいたのか?

■共通の生活様式は
CD-ROMの電子広辞苑で「文化」を検索したら「人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果。衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容とを含む」とあった。
確かに電子ネットワークは人間が作り出したモノだが…そう、彼らに共通する“生活様式”といえば定期的に(大部分は一日に一回)コアラに接続することかな。それは、実生活で夕方になったら自宅に帰るようなもので、精神面で一日あったことを電子 コミュニティに持ち帰り、互いにそれらを共有するかのようだ。そして、翌日に向かって新しい知識や仲間の共有体験を得て飛び立っていく。
こういったことが十年も続けば、既存枠にこだわらない行動や概念が生まれるモノ。
いや、バーチャルが実体を生み出したり、“電子の県土”を感じてしまう。これが“電子地域文化”なんだろうか?

■百万が二百万円に
いや、サントリーの佐治会長を見るとそんな理屈は吹き飛ぶようだ。パーティ会場で同じく受賞した「神戸ジャズストリート」のバンドをバックに自ら「ローハイド」や「すみれの咲く頃」を会場全員と歌って楽しんで見せてくれた。傘をさして「聖者が 町にやってくる」をバックに会場を練り歩いて見せたりも。
極めつけは、懇親会最後に選考委員の熊谷大阪大学前総長が「副賞百万円は発足
当時はすごい額だったが、この賞の価値は額でない。金に換えられないもの」とあいさつ。
即座に佐治会長が「分かった、今年から二百万円にする」と言ったからタイヘン。
会場は大騒ぎ、割れんばかりの大歓声。最後の最後にどんでん返しがあるなんて、まるで小説みたいじゃありませんか。

(ニューコアラ事務局長・尾野徹)

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